院長
山下 徳次郎

不定愁訴とは、病気とは診断できないような原因のわからない数々の訴えのことで、その多くは自律神経失調症の診断のもとに、安定剤などの向精神薬や鎮痛剤、漢方薬などの薬物が投与されます。

しかし、原因がわからない症状に対して闇雲に投薬を行っても、なかなかうまくいきません。もし本当に自律神経失調だったとしても、安定剤などの向精神薬で自律神経失調が改善するとは考えられません。むしろ、これらの薬剤の長期投与は自律神経の異常を増悪させる可能性があります。

以下の症状は、一般的に知られておる不定愁訴です。
(若杉文吉氏著「星状神経節ブロック療法」より引用)

からだがだるい疲れやすいからだがフラフラする寝汗をかく
風邪をひきやすい風邪が治りづらい乗り物に酔いやすい冷え性
汗かき(全身・手)汗がでないイライラする怒りやすい
ゆううつである寝つきが悪い眠りが浅い朝の寝起きが悪い
頭痛頭重感のぼせる考えがまとまらない
顔が痛いめまいがする立ちくらみがする目がぼやける
目が疲れる視力低下目がかゆい目がかわく
耳鳴りがする耳が聞こえづらい喉が痛い喉がいがらっぽい
喉が乾く口内炎がよくできる扁桃炎を繰り返す舌が痛い
味がわからないくしゃみ鼻水鼻づまり
においがないいびきをかく歯ぎしり首. 肩がこる
背中がこるわきが手がしびれる手が震える
血圧が高い血圧が低い胸が苦しい動悸がする
息切れ食欲がない胃腸が弱い胃部不快感
胸やけ吐き気ゲップがよく出るおなかが張る
ガスが多く出る腰痛足が冷える足がほてる
膝が痛い脚がつる脚がしびれる脚がむくむ
あかぎれができるしもやけができる魚の目がある皮膚がかゆい
脱毛が多い蕁麻疹がよくできる湿疹ができやすい爪が割れる・はがれる
水虫ができる慢性便秘下痢をよくする下痢便秘交互
頻尿尿失禁がときにある夜間尿が多い残尿感がある
性欲減退インポテンツ生理不順生理痛がつらい
不妊症で悩む痔で困っている  

これらの症状は、自律神経の異常、特に慢性的な交感神経の緊張が関与していると考えられており、星状神経節ブロックを行うことにより改善する可能性がありますが、星状神経節ブロックを行っても改善しないものや、星状神経節ブロックを中止するとまた再発するものも多くあります。それらは、体温の低下・身体の冷えや筋組織に生じたトリガーポイントが関与していると考えられ、それぞれ漢方薬の温裏剤の投与やトリガーポイント治療を行うことにより改善する可能性は十分あります。

1.慢性的な交感神経緊張が原因で起こる不定愁訴

自律神経失調症という病名は日本独自のもので、日本以外の国では使われませんし、日本でも正式な病名として認められてはいません。しかし、不定愁訴の中には自律神経の異常で起こるものがあるのも確かです。問題なのは、自律神経失調に対して安定剤などの向精神薬を投与することにあります。不定愁訴を起こす自律神経異常の本態は主に慢性的な交感神経緊張と考えられており、星状神経節ブロックが有効なものがあります。 前述の90項目の症状は、若杉文吉氏が、星状神経節ブロックによって改善した症状をまとめられたものです。

2.体温の低下や冷えが原因で起こる不定愁訴

近年、現代人の体温の低下が問題視されていますが、不定愁訴の中にはこの体温の低下が原因で起こるものがあります。このような体温の低下や冷えによる不定愁訴に対しては、身体を温める温裏剤という漢方薬が有効です。

3.筋膜の虚血性病変が原因で起こる不定愁訴

痛みの項目で述べた筋膜性疼痛症候群では、痛み以外にも様々な症状が起こり、四肢のしびれ感や冷え、首・方の凝り、消化器症状、めまい、耳鳴りを始め数多くの症状があります。これらの症状は痛みと同様筋膜の虚血性病変が原因で発症しますが、医師にはほとんど認知されておらず、診断がつかないため、不定愁訴となります。このような不定愁訴に対しては、薬物療法の効果が観られないようなものでも、エコーガイド下Fasciaハイドロリリースという治療により改善が望めます。

しかし、慢性的な交感神経の緊張、体温の低下・身体の冷え、筋膜の虚血性病変といった不定愁訴の原因の背景には、それらを生じさせる何らかの要因が存在しています。心理的な問題やライフスタイルなどが要因となることが多く、治療効果が得にくい場合や、再発を繰り返す場合は、それらを明らかにして対処す
ることが必要になります。